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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)19号 判決

東京都港区赤坂二丁目三番六号

上告人

株式会社小松製作所

右代表者代表取締役

片田哲也

千代田区三崎町二丁目五番三号

上告人

鉄建建設株式会社

右代表者代表取締役

高橋浩二

右両名訴訟代理人弁護士

上村正二

石葉泰久

石川秀樹

田中愼一郎

同弁理士

藤木三幸

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 深沢亘

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第二三六号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年九月二六日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人上村正二、同石葉泰久、同石川秀樹、同田中愼一郎、同藤木三幸の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成三年(行ツ)第一九号 上告人 株式会社小松製作所 外一名)

上告代理人上村正二、同石葉泰久、同石川秀樹、同田中愼一郎、同藤木三幸の上告理由

第一、上告理由第一点

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

一、原判決はその理由二、2(六〇頁以降)において、「右1の(一)、(二)の記載からは、第二引用例第5図に図示された放射状アーム48を構造体(別紙参考図面の赤色表示部分)から前方に突出する支持部材(別紙参考図面の緑色表示部分全部又は緑色部分のうち放射状アームのうち後部部材より後にある部分)の構成がどのようなものであるかを直接認定することはできない。」

と一度正確に判断しておきながら、

「第二引用例第5図及び第6図(本判決別紙第二引用例図面第5図及び第6図)によれば、両図面には、掘削部材16が設けられている放射状のアーム48とその後方においてベアリング33に回転可能に支承されている構造体との間を回転軸線方向に長い一対の直線状部材で接続することが記載されている。」

と認定している。

しかしながら、第二引用例の第5図第6図は、製図における図面の表し方の基本原則を無視した図面であって、原判決摘示の箇所は全く意味不明の記載であり、かかる記載を基に前記のような技術内容を認定をすることは、明らかに従来からの工業所有権業界における経験法則に反するものであって、法令の適用を誤った違法が存する。

以下その理由を述べる。

〈イ〉、先ず、第二引用例の第5図第6図には、図面相互間の不一致が多数存在する。

すなわち、第二引用例の明細書第三欄三一頁に記載されているように、「第5図と第6図は引用例の発明に基く他のトンネリング・シールド構造のそれぞれ側断面図と部分正面図であり、さらに第5図は第6図の線V-Vに関する断面を示しているのである。したがって、第5図は、部分正面図である第6図の側断面図である筈である。右観点からすれば、第5図の上三分の一部分(別紙添付参考図面A御参照)は、本来、第6図の上三分の一(別紙添付参考図面B御参照)の断面を左側面からみた図面である筈である。

したがって、参考図面Bは、図面上いわゆる省略法で描かれた図面である筈であるから、参考図面Aには原判決添付の参考図面中赤色を施した部分が、断面図として表われてこない部分の筈である。それにも拘らず断面図としてこれを表示されていることは作図法上異例である。

〈ロ〉、同じような事が第6図の右端中央部分(別紙添付参考図面C御参照)も図面上省略法で描かれているから、第5図の右中央部分(別紙添付参考図面D御参照)の上端、下端部が表示されない筈である。それにも拘わらず、参考図面Dにはこれらを明確に表示しており図面相互間の不一致をきたしていることが明らかであって、作図法上もかかる相互の図面は認められない。

〈ハ〉、更に、第6図に記載されているすき型のデフレクタ47の形状が参考図面Dのデフレクタの形状と異って表示されており(尚、参考図面Dにおいては49とあるのは47の誤りと思われる)、又、部分正面図である第6図には、その構造体についての記載もないのであるから、第5図にも構造体や駆動部分の構造が側断図としては表示されない筈のものである。それにも拘わらず、第5図上に構造体や駆動部分の表示があることは図面上の矛盾を示すものである。

〈ニ〉、又、第5図が通常の側断面としてもバルクヘッドおよびその蓋、半径方向アーム等のハッチングの記載がされていない点も矛盾するものである。

〈ホ〉、一般に、図面上省略法を採用する場合には、関連図面相互間において矛盾なく、そこに表わされている技術思想を明確に理解することができる場合に省略できるのである。

又、図面上、その部材、構造を特定する場合には、原則として少くとも二方向からの図面がなければならない筈で、一方からの図面若しくは線により構造を特定することは原則として不可能である。右二原則にしたがって、第二引用例の第5図第6図をみた場合、そこに記載されているもの(原判決添付参考図面中、緑色表示部分全部又は緑色部分のうち放射状アームのうち後部部材より後にある部分-以下単に便宜上「支持部材」という)がいかなる部材でいかなる構成を有するものなのか、すなわち、図面上いかなる技術思想を開示しているか理解することは不可能である。尚、この点につき特許業界の図面解釈に関する一般的慣習からしても首肯できるところである(甲五第号証、同第六号証)。

以上のように、第二引用例の第5図第6図には数多くの矛盾が存し、図面上全く不正確なものであり、かつ製図法上の原則を無視したものである。従来の工業所有権業界に関係する人々においては、かかる不十分なかつ不正確な図面、したがって、その具体的技術思想も不明確な図面にもとづき、昭和五三年当時の業界におけるパイオニア発明である本願発明を拒絶した審決を認容した原判決には、特許法第二九条の適用を誤ったものである。

一般に、特許性が認められるならば、何人にも平等に特許を受けることが認められ、もって産業発展の育成を目的とする特許法の精神を不明確な技術内容で拒絶することは特許法第一条を否定するものであって許されないものである。

二、次に原判決においては、

「その添付参考図面中緑色部分が放射状アーム48を構造体に支持させるための部材であると認定する理由として、第二引用例の第5図及び第6図記載の装置において、放射状アーム48(本判決別紙参考図面の青色部分)の駆動装置をみると、右装置においては、軸受33に回転可能に支承されている構造体(本判決別紙参考図面の赤色部分)が油圧モーター30によりピニオン31を介して回転駆動され、次いで、放射状アーム48がこの構造体を介して回転駆動されるようになっていること及びこの場合に、第二引用例記載発明の第一実施例である第二引用例の第2図ないし第4図に図示されている装置と対比すれば、放射状アーム48が構造体に支持されてこれと一体的に回転することは明らかであることが認められる。

そうすると、放射状アーム48と構造体との間には、その放射状アーム48を構造体に支持させるための何らかの部材が当然必要であるが、第二引用例の第5図をみる限り、このような機能を果たし得る部材は放射状アーム48と構造体との間を接続するように図示されている部材(本判決別紙参考図面の上下の緑色部分)をおいてないから、右部材は少なくとも放射状アーム48を構造体に支持させるための部材であることが明らかである(六二頁~六三頁)。」

としている。

しかしながら、原判決でも認めているように、第二引用例の第5図第6図記載の実施例は、第1図乃至第4図に示す実施例とは異なる改良型掘削ヘッドである。しかも右実施例は、ヘッド中、掘削土砂を外方向に運び適当な出口ダクト内に導くように配置した両側がすき型デフレクタ47を有する部分の構造を示したものであって、放射状アーム48と構造体との関係を開示している実施例ではないのである。

したがって、当該部分には原判決摘示のような支持部材としての技術思想は表示されていないと見るべきものである(同趣旨、昭和四二年(行ケ)第六六号、昭和五二年七月二八日東京高等裁判所第六民事部判決、昭和五一年(行ケ)第一三号、昭和五二年六月二八日東京高等裁判所第六民事部判決)。

仮に、当業者が第二引用例第5図第6図における放射状アーム48と構造体との関係を推測できるとすれば、それは、第二引用例の第1図乃至第4図に実施例として記載されている同種の支持手段を考えるのが普通である。

通例、特許明細書中に第一実施例と第二実施例があり、第二実施例の具体的構造が不明確であって、第一実施例では明確になっている場合には、当該不明確な構造は第一実施例の構造で補完して理解すべきであり、右のように解するのが工業所有権関係者若しくは、産業界においてきわめて通常行なわれている原則である(甲第七号証の一乃至二)。

右観点からみれば、「第1図乃至第4図の第一実施例では、放射状アーム48が外周縁シェル24によって構造体に支持されていることが明らかであるから、第5図第6図の第二実施例においても、放射状アーム48を支持している支持部材は、第一実施例の外周シェル24と同様な構造、即ち一体の円筒状構造(そのような円筒状のものでなければ掘削刃による掘削抵抗および油圧ジャッキ等による推進力に対する十分な構造強度に耐えられない)と解するのが普通である(甲第八号証)。

右のような経験則に反し、第二引用例の第1図乃至第4図に示されている実施例における支持手段を技術的に解明せず、安易に「…少くとも放射状アーム48を構造体に支持させるための部材」と認定したこと並びに後述の如くその支持部材を軸線方向に長い一対の直線部材と認定したことは、明らかに違法である。

三、次に原判決では、第二引用例第5図第6図の掘削土砂の排出機構につき「掘削部材16で掘削された土砂は、作業室23(本判決別紙参考図面参照)に取り込まれ、放射状アーム48の回転に伴って傾斜すき刃49を有するデフレクタ47(本判決別紙参考図面の茶色部分)により円錐壁46の内周部に沿って持ち上げられ、同じく円錐壁46の内周部に設けられこれを貫通する出口ダクト45(本判決別紙参考図面の黄色部分。)へ導かれて排出されるようになっていることが認められる。」とし、「第二引用例第5図及び第6図の装置において出口ダクト45へ掘削土砂を搬送してその排出を支障なくできるためには、放射状のアーム48と構造体との間を接続するように図示されている部材(本判決別紙参考図面の上下の緑色部分。以下「支持部材」という。)の内方(本判決別紙参考図面の上下の緑色部分の間)に取り込まれた掘削土砂をその外方(円錐壁46の内周方向)へ自由に流出し得るようにすることが設計上当然必要となる。」とし、

更に、「支持部材が原告主張のようにカッタドラムのようなものであるとすると、その内部に取り込まれた掘削土砂は、そこに滞留したままであって、その外方に位置する円錐壁46の内周部に設けられた出口ダクト45から排出することが不可能」となるから、「放射状アーム48の上下をそれぞれ支持する第二引用例第5図記載の支持部材は、第一引用例におけるカッタドラムのように内方に仕切られた空間が形成された単一の部材ではなく、本願発明における支持脚のような独立した別個の部材であることが認められる。」としている。

しかし、右認定は、次の二点において違法といわざるをえない。

第一に、原判決においては第二引用例の第5図第6図に記載なき事項、即ち、作業室23(原判決別紙参考図面御参照)部分を第二引用例の第5図に勝手に書き入れ、それを基に議論を展開している点である。

原審の審理過程において当事者の一方が勝手に第5図に記載した事項、又その意味内容を吟味することなく単純にそれにもとづき刊行物の技術内容を認定することは、採証法上の原則に反し許されないものである。

第二引用例の第5図第6図記載のものは、その第1図乃至第4図の実施例とは異り、改良型掘削ヘッドに関するものであるが、その中で特にすき型デフレクタ47部分並びに出口ダクト45の構造に関するものであって、作業室23に関するものでないから当然の事ながらその記載は何もない。即ち、第二引用例の第5図第6図には、部品符号16、23、33、34等につき何らの記載がないにも拘わらず、上記符号をも被上告人がその準備書面の参考図において任意に記載したものである。特に、掘削された土砂を出口ダクト45に排出させる作業室23が、いわゆる支持部材内方部分をも含めて、シールド本体(円錐壁46)内全面にわたって形成されると認められる何の記載も示唆もないものである。少くとも、作業室23を第5図のシールド本体の支持部材内方部分(原判決の参考図面中23と記載している部分)に限定するかの如く独断にて作業室23を第5図に表示し、それにもとづいて掘削土砂の排出機能がないことを理由に結果として第5図記載の支持部材の形状を認定していることは、採証法上の原則を無視した違法があるといわざるをえない。

第二に、第二引用例の第5図第6図記載の実施例は、流体循環バルクヘッドと回転掘削ヘッドとを備えたシールド式トンネル掘削機であるが、その第5図第6図に記載されている図面並びにそれに関する明細書の記載によれば、その掘削土砂の排出機構は次のとおりである。

すなわち、放射状アーム48を回転させることにより、放射状アーム48上に設けた掘削刃によって切羽の土砂を掘削するのであるが、これらの掘削刃は第5図第6図に図示されているとおり切羽面に直角に配設されているので、掘削土砂は、泥水で満たされた切羽側先端において重力により放射状アーム48と切羽面との間を落下し底部に堆積する。これを放射状アーム48の先端に設けたデフレクタ47により掻き上げ、デフレクタ47の傾斜に沿って後方に位置する出口ダクト45に導かれるのである。

したがって、第二引用例の第5図第6図記載の実施例は、右のような構成並びに機能を有するものであり、技術的にも掘削土砂を原判決のいう支持部材の内方に取り込むものではなく、それ故いわゆる支持部材の内方から外方に掘削土砂を自由に流出させる必要もない。仮りに掘削土砂が支持部材内方に取り込まれるとしても、それは泥水状のものであるから簡単な排出孔があれば、十分排出できるものであって原判決摘示のような不都合はないものである。

右の如く、原判決は、第二引用例第5図第6図の記載から技術的に当然判断される掘削土砂の流出状況を無視し、図面上記載なき事項によりその技術内容を解釈するものであり、訴訟上の原則並びに全ての経験則を無視し法令の適用を誤った違法なものである。

四、原判決では、上告人が第二引用例の第5図第6図において、原判決摘示の支持部材に切断した断面を示す斜線がないことにつき、第5図の他の箇所においても断面であることが明らかである部分についても断面斜線が入っていないことを理由に、第5図は断面であっても必ずしも断面斜線を入れない図法を採用しているものと認定している。

しかしながら、図面上省略法を用いる場合には、当該図面並びにその他の関連図面から判断して当該部分が切断面であることが明らかに認められるような場合であるが、明細書本文にも記載されておらず、当該図面からも不明確な部材を特定する場合には、通例、当該部分は省略図法を採用していないとみるのが通例である。したがって、第二引用例の第5図第6図上、不明確な支持部材に関する部分においては省略法を採用していないものと解釈するべきである。

又、原判決第七二頁おいて「…背面構造を示す点線は必要がなければ省略するのが通例であるから、第6図に支持部材の接合部を示す点線が表示されていないからといって、支持部材が回転軸線方向に長い一対の直線状部材ではないということはできない」と認定している。しかし、図面上、構造部材等を特定する(原判決上、一対の直線状支持部材と認定する)ためには、図面相互間に矛盾なく適正に表示されていなければならないが、まさしく第6図には支持部材の接合部を示す点線がないことにより、当該部材が一対の直線状支持部材であるか否か認定できない筈である。背面構造であっても、直線状支持部材と認定するためには図面相互間で明確に特定できる場合にのみ省略図法が認められるものである。

更に、原判決第七四頁において「環状部材を図示する場合、その端部周縁を表す線、例えば右構造体の端部周縁を表す垂直線は、適宜省略する場合があり、第二引用例第5図においても、環状部材であることが明白な円錐壁46の右端周縁を表す垂直線が省略されていることが明らかであるから、第5図は環状部材の端部周縁を表す線を適宜省略する図法を採用しているものと認められ、第5図に構造体の支持部材側の周縁を示す線が図示されていないからといって、支持部材が、回転軸線方向に長い一対の直線状部材ではないということはできない。」としている。

しかし、前述した如く、図面上省略図法を用いる場合は、明細書本文その他図面相互間から判断して、具体的構造、部材等の形状が特定できる場合であって、それ以外省略しないのが原則である。第二引用例の第5図において円錐壁の周縁を示す線が省略されているのは、明細書第四欄第五一行目に、「the frusto-conical wall 46 of the bulkhead」(バルクヘッドの円錐ウオール46)と記載されており、又、第5図第6図からもバルクヘッドの円錐ウォール46が円錐形であることが判明しているからである。 したがって、第5図の構造体と放射状アーム48間の部材が支持部材であるか否か、又その構成、部材がいかなるものであるかが不明確である場合には、それと接続する環状部分の端部周縁を表わす垂直線を省略できないものである。それにも拘わらず、これらの垂直線を適宜省略する場合に該当するとする原判決は製図における省略図法の原則を無視した違法があるといわざるをえない。

五、次に、原判決の第七八頁において「第二引用例記載の発明における円錐壁46及び作業室は、それぞれ本願発明におけるシールド本体20及び取込室Aに相当することが明らかであって、その作業室は、円錐壁46すなわちシールド本体の内面で形成しているところから、本願発明における取込室Aと同様にシールド本体内全面にわたり形成するようにしているといえることも、原告等が自ら認めるところである。」

としている。

しかしながら、右認定部分において、原判決がいわゆる取込室と作業室を同一視した結果、誤った認定をしたものである。即ち、前記三の第二以降において既述した如く、第二引用例第5図第6図記載の泥水加圧式シールド掘進機(第二引用例の第二実施例)は、放射状アーム48を回転させることにより、放射状アーム48上に設けた掘削刃によって切羽の土砂を掘削するが、その掘削した際の掘削土砂は泥水で満たされた切羽側先端において重力により放射状アーム48と切羽面との間を落下し底部に堆積し、これを放射状アーム48の先端に設けたデフレクタ47により掻き上げ、デフレクタ47の傾斜に沿って後方に位置する出口ダクト45に導かれるものである。

右の如く、第二引用例の第5図第6図記載の実施例では、カッタ刃で切羽面を掘削し、これを出口ダクトに導く作業を切羽面とカッタ前面並びに支持部材の外周面で囲まれた部分でなされるのである。

一方、本願発明においては、切羽面をカッタ刃で掘削した土砂を積極的に取込口23から取込室Aに取込み、そこで掘削土砂を支持脚25等で撹拌し排出しているものであって、本願発明における取込室と第二引用例の第5図第6図に記載されている実施例のワーキングチャンバー(作業室)の各機能とは全く異なるものである。特に本願発明においては、その第4図第6図の記載からも明らかのように、カッタ24が切羽面に対して垂直に設置されておらず、傾斜して設置されておりそのため掘削した土砂は容易に土砂取込口23から取込室に入るように構成されているのである。

このように、取込室とワーキングチャンバー(作業室)とを同一視し、本願発明の取込室を第二引用例の第5図第6図におけるワーキングチャンバーと安易に同一のものと認定した点に誤りが存する。

右の点につき、原判決においては、右作業室が本願発明における取込室のに相当することを上告人自ら認めているところであると認定しているが、上告人は、原審においてもこれらワーキングチャンバー(作業室)の機能がいわゆる本願発明の取込室のそれに相当するものであると主張したことも認めたこともない。第二引用例の実施例において掘削土砂が作業室等において排出されず滞留することが最大の論点であるにもかかわらず、これらの点を当事者間に十分に論議させ審理することなく、安易に上告人らが自ら認めるところであるとすることは審理不尽のそしりを免れない。

したがって、原判決は、上告人が否定している事実を、具体的な記載にもとづきその各々の作用効果をも認定せず、安易に第二引用例記載のワーキングチャンバー(作業室)をその機能も含めて本願発明における取込室に相当すると認定したことは違法がある。

更に、原判決第八三頁において、本願の支持脚が、本願図面の「第7図に示すように、例えば三本の支持脚25が後向きに突設され」たとの構成及び「これら支持脚25の端部は、リング状の受部材26と一体に形成されている。」という構成を持つものであることを前提とする主張は、本願発明の要旨に含まれない構成に基づく主張であり採用できないとしている。

しかしながら、原審においても本願発明の要旨として「…(中略)…土砂取込口23を有するカッタヘッド22の後面に、複数の支持脚25を突設すると共に、該支持脚25の端部に、リング状の受部材26を設け、該カッタヘッド22におけるリング状の受部材26を、前記カッタヘッド支持構体Bにおける前記支承部27に、…(中略)…」とされており、まさしく「複数の支持脚25が後向きに突設され、その端部はリング状の受部材26と一体に形成されている」ことが本願発明の要旨の一部として記載されているのである。

仮りに、クレームの具体的記載内容が不明確な場合には、発明の詳細な説明欄や図面等の明細書全体からその意味内容を特定することが一般的に行なわれている実情(たとえば、昭和四一年(行ケ)第四六号、昭和四九年六月一二日東京高等裁判所第一三二民事部判決等)から判断すれば、「複数」の中には「三本」も含まれ、形成されている状態が「リング状の受部材と一体に形成」されていることは明細書や図面からも明白に認識でき特定できるのである。

それにも拘わらず、原判決は、被上告人の主張をそのままとり入れ意味不明と判断しているものである。したがって、上告人の主張は本願発明の要旨に含まれない構成に基く主張であるとしてこれを排斥した原判決には、明らかに判決に影響を及ぼす審理不尽の事実誤認がある。

六、原判決には以上のような、採証法の原則、製図法上の原則その他の経験則に違反した事実誤認があり、明らかに判決に影響を及ぼす法令違反があるといわざるをえない。

よって、上告審において原判決は破棄を免れないものである。

以上

参考図面A

〈省略〉

参考図面B

〈省略〉

参考図面C

〈省略〉

参考図面D

〈省略〉

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